日々のこと18



森 の ま つ り




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  日々のこともこれで18話 となります。
もっと幅広く話題を拾っていこうとして始めたコーナーですが、
最近は特に音楽のことからまるではなれていません。

 音楽屋のぼくが無理に広げることもあるまいと、ついには開きなおっています。
そして、今回は七夕の日に青森で開かれたぼくのコンサートのことを書くことにしました。
理由のひとつは以下です。
 ぼくのコンサート開催の頻度は、
ポピュラー音楽を生業とする者としては、限りなく最少に近いと思います。
そして会場も決して来ていただきやすいとは言いにくい場所にあったりします。
数すくないのだから、せめて場所は利便性の高さを基準にするのが礼儀というものでしょうと、
お叱りをうけてもしかたがありません。

 がしかし、このスタンスは、きっと当分つづけさせていただくことになりそうです。
 訳はナント『何となく』だったりします、すみません。
それで、償いもこめてここで『森のまつり』を自分でレポートします。
来られなかった方々に少しでもコンサートを味わっていただけたらと思います。


 さてたぶん聞きにきた方が、まちがいなく記憶にとどめた事は、
演奏者の背後の広い窓からの木立と陽射しと風だったのではないでしようか。
前日のリハは屋根を打つ激しい雨音と、
ぼんやりとしか見えない窓外の風景の中で行われました。
そして当日の降水確率も70%の予想。
関係者は誰もがきびしい当日に対処すべく立ち働いておりました。
予想が完全にウラギラレタから言うのではないのですが、
ぼくたちは、荒天もまたよしとの気持ちだったのもたしかなのです。

 六日朝、羽田を飛びたてずに、列車に乗り換えたあたりでは覚悟はできていたのです。
コンサートのために作られたわけではない会場を選ぶということは、
この覚悟なくしてはありえません。


 そして当日。
朝ぱらついていた雨があがった午後二時開演です。
ぼくのギターでの弾き語りからはじめました。
第二部との対比を考えて、一応ぼくの曲の中では聞き覚えのありそうなものを選択しました。
中で『東京暮色』は実は四半世紀ぶりに人前で歌いました。
この曲については他に書いているので割愛しますが、
ともかく喋らずに歌いつづけたら、体調が悪いのかと心配した方がいたそう…
確かにフォーク歌手はお喋り上手だもんなあ、ぼく以外。

 続いてウォンのピアノ即興独奏。
この時会場できいていたので、幸運にも体験できたのですが、
ウォンのつむぐ音に呼応して、日がさし、そしてかげり、風が、
上昇する音列そのもののように木の葉を、ゆらしていたのでした。
ライブ終了後、同じ個所を指摘した別々の二人の方がいたので、
びっくりし、そして喜びあいました。

 



第二部は、ウォンのピアノとぼくの歌。
この日発表したCD『しずかなまつり』そのままのスタイルです。
選曲もこの中からのみ。
ただし、それぞれの曲が、
この日だけのものになっていったことは報告しておきたいと思います。
たぶん、ぼくたち二人の演奏ほど、決まりのすくないものはそんなに無いはずです。
音楽的な決めの少なさはもちろんですが、お互いの曲の解釈も、
その時以前のものは極力もちこんでいません。

 たとえば、この日の演奏で、
思いがけない展開をしたとぼくが感じたものは、二つの水たまり。
安定した展開だったのは、なつのあさ。違う色彩を感じたものは、
いのち返す日、平原にて。
こまかく言うときりがないのですが。
ただし、ウォンは、そして、聞きに来てくれた方がたの印象は、
きっとまた別であると思います。

 今日になり、あの日青森へ北海道上川郡から
ご夫婦で聴きに来てくれた方のファックスが届きました。
至福という言葉が文面にあります。
ぼくもまた、その一言がそれほどおおげさではなかったとひそかに思っているひとりです。




青森での会場


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