ふたつのみずたまり題字

歌のはなし 曲名 公表作品 作詞者 作曲者
033 ふたつのみずたまり 『しずかなまつり』 及川恒平 及川恒平 

4/4
ゆっくり

D      Em     A7       D        D△7
 二つの  水たまり   一つには雲 一つには木

D         F♯m  Bm/B7  Em      A7
 虫のむくろが 空に   う  か   ぶ     


D      Em     A7        D        D△7
 二つの  水たまり   多分明日は どこかへゆく 

D         F♯m  Bm/B7  Em      A7
 忘れかけてた 海に  は い    る


D      Em     A7         D       D△7
 二つの  水たまり   いつか手足で 歌をうたう

D      F♯m   Bm/B7  Em     A7
 夢の薬を 少し   飲 ん   だ
  
  
D      Em     A7       D        D△7
 二つの  水たまり   一つには雲 一つには木

D         F♯m  Bm/B7  Em      A7
 虫のむくろが 空に   う  か   ぶ 

野坂徹夫作『こおろぎ』撮影・及川

野坂徹夫作『こおろぎ』 撮影・及川恒平

 この歌は実際の風景が下敷きになっている。
というか、そのものだ。
4,50キロを走った後でちょっとほっとしていたせいかどうか、
道端の雨の作った水溜りが、みょうに印象的だった。
 水溜りの風景がこの世の続きにしてははかなそうな、しかしリアルでもあり。
結局、僕の感傷ではあるのだろうけれど、歌にしておきたいと思ったのだった。
 
 見る力というものは、発揮しようとしなければ、目の前のものすら見えなくなる。
僕自身は未確認飛行物体を見たことはないけれど、
見たことのある人に言わせると、このような理屈である。
見ようとしないから見えないと・・・

 よくわかる。
実は、この歌の風景もそうなのだ。
水溜りに映っている景色に焦点を合わせているとき、見えなかったものがある。
水面に浮かんでいた小さな虫のむくろである。
このような目の錯覚を応用した短編があった。
たしかポーのものだった。
 現実問題として、このトリックの設定は無理があったけれど、
ひとつの理屈として考えれば、けっこう応用のきく小説だと思う。
 僕の話にもどすと、そのとき、虫のむくろは水面をゆっくり漂っていた。
そして、僕が再び水溜りに映る景色に目の焦点をあわせると、
空を漂っているようにも見えた、というわけだ。

 未確認飛行物体とは、こんな現象なのかもしれない。
つまり、二重の構造になっている風景をそっくり一場面として
認識というか、錯覚してしまうというようなことだ。
 なんて、未確認飛行物体を認めないつもりは毛頭ないけれど、、
錯覚で何が悪いのかという気もする。
もっと強気に言えば、錯覚というものの守備範囲は、存外広いのではないだろうか。
  “夢を現実と錯覚する”ということがある。
夢の中で、これは夢なのだと思っていることもあるけれど、
まあ、普通は夢では、それが現実と思っているほうが多いだろうから、
そのつもりで話を進める。

 説明するほどのことではないけれど、
夢の中でも現実と認識していて、現実の中でも現実と認識しているのだから、
夢とは、人がその存在を認識できないひろがりを持っていそうだ。
 現実と思っている部分に夢が入り込んできてるともいえるのか。
または、現実と夢は、ひとが連続体として錯覚しているだけで、
色水のようには、いっさいまじわらずに共存しているとも考えられる。
バケツの底に穴が開いていて、
そこから流れ出たものだけは、混じりあうなんて説でもいいか・・・

やめます。
 いずれにせよ、現実なんて、そんなにえばった立場でもないのかもしれない。
いつか目が覚めて、ああ夢だったのかと思うときがくるかもしれないし、
なかには、これは夢なのだと思いつつ日々をおくっている人がいてもいいわけだ。
だいたい“現実”なんて単語、うつせみ+じつ、だなんて、
がちがちに塗りかためた発想ほどあぶなかったりして。

 水溜りの中から、走っていた僕側の世界をのぞくことが可能だったら、
いったいどんなふうなのだろうか。
 太田省吾さんの劇中歌(及川作曲)にこんなのがある。

クロアゲハの乳房はぺっしゃんこ
見る影なくしてまいあがる
おいらの部屋の小さな窓と
闇の穴とをまちがえて
頭をぶつけてオシャカサマ・・・

この闇の穴も、あやしげな装置だな。
                                         《2004/3/31記》 


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