君は誰かな

歌のはなし 曲名 公表作品 作詞者 作曲者
080 君は誰かな はじまりはじまる
糸田ともよ 及川恒平
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A・C#m/Bm・E7   A    C#m・Bm/E7・F#m    E7
光が   傷口     を    細く    雲に 開     き

Bm・A#-/C#m・F#m  E7     D-      Dm  
零れて   くる 様    に     笑ってる   君は誰

A      ÷


A9        ÷        A9         ÷
揺らめく  坂道       君は  誰か  な



A・C#m/Bm・E7   A     C#m・Bm/E7・F#m   E7
優しく   曖昧    な     言葉の 網の目      に

Bm・A#-/C#m・F#m   E7     D-       Dm  
溜息   絡ませ        て      星を摘む   君は誰

A      ÷


A9         ÷       A9           ÷
泡立つ   踏切        君は   誰か   な



A・C#m/Bm・E7   A      C#m・Bm/E7・F#m    E7
闇に 溺れてい    く      木の葉を 追う様     に

Bm・A#-/C#m・F#m   E7     D-         Dm  
不意に 見えなくな      り     届かない     君は誰

A       ÷


A9         ÷       A9            ÷
ざわめく 街路樹       君は   誰か    な



この歌をうたうとき、
僕は微妙な不安の中にいる。

君は誰かな、と問わねばならないというのに、、
すでに君はそこにいないのではないか、
いや、君はもともと、いないのではないかと。

君は誰かな、とは、
私は誰か、の言い換えかと、かんぐってもむだなことだと、
早晩きづかされるだけだ。



君は誰かな。



そして、その語り口を真に受けて、
この問いに、まっすぐに歌い手が反応するわけにもいかないと、
おもいいたるだろう。
そう、この、君は誰かな、は、
どんな答えも欲していないのだと。



それまでの習慣にしたがい、
思いをこめて訊ねようとしても、
耳元で、がわがわと鳴る、もがりぶえのような
自分の声を聴くだけだ。

聴く人々を説得しようとする歌い手の、欲望をあざ笑う仕掛けに、
そうやって、僕もまた身動きがとれなくなるのだ。



きみはだれかな



水でかいた落書きのように、
急速に意味は希薄になっていく。
意味は喪っていくのだけれど、
濃厚な気配を残したままの言葉が在ると謂う。



「キミハダレカナ」



坂道、街路樹、踏切と、風景は移り変わる。
ところが、眼前にいるはずの「君」は、いない。



「キミハダレカナ」



ふと、口をついてでたはなうた。
たった一人のリスナーは僕自身。
そんなときでさえ、
言葉の意味も、問うという行為の意図も、教えてはくれない。

僕はあきらめていく。
君には、誰かな、なんてもう訊かない。
問いつめたりなど、もちろんしない。

だから、
呆然と音のみをつむいでいる僕をみつけないでほしい。



キ・ミ・ハ・ダ・レ・カ・ナ 



この信号がとどくとすれば、ここでも、いまでもない。
見知らぬ星の落莫たる平原の小石。
 
2007年 「はじまりはじまる」六文銭’09 CD収録
2010年「地下書店」及川恒平ソロ CD収録

関連ページ  http://melharp.asablo.jp/blog/

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